高校教育

芸術科 音楽 コース

音楽コースの学び 教師対談

音楽コースで3年間過ごせば、
「知らなかった自分」に出会えます。
■ 普通高校から音楽大学をめざした経験
■前田:
僕は奈良県の出身で、通っていた高校は音楽科ではなく外国語学科でした。個人的にピアニストの先生にピアノを習いながら芸術大学を目指しました。
■小久保:
私も前田先生と同じで、普通高校出身です。私は浜松出身で、学芸の音楽コースに行きたいと思っていたのですが、親から普通科に進むことを勧められました。私が早いうちから音楽に専念することによって、将来の選択肢が狭まるのではないかと心配したようです。ただ、音大をめざすことは賛成してくれたので、普通科で学びながら名古屋や東京の先生のもとに通ってユーフォニアムのレッスンを受けることにしました。
――普通高校から音楽大学をめざすのは大変でしたか?
■前田:
そうですね。やはり音楽の世界は特殊な面があり、大学進学する際も一般的な受験とは違った準備が必要になります。普通科の先生方はそういう知識が限られているので、頼ることが難しい状況でした。
■小久保:
私も同じでした。自己責任で受験する感じになりますよね。
■前田:
また、音大の受験科目には「聴音」や「新曲視唱」、「音楽理論」などがあるのですが、僕は音楽理論を習ったことがなかったんです。今考えるとかなりリスキーな受験だったと思います。
それと比べると、学芸の音楽コースではすべての受験科目を学ぶことができます。また、僕の場合は一人で受験に臨みましたが、学芸なら仲間と励まし合いながら一緒に目標をめざすことができます。そこが一番大きな違いだと思います。
■小久保:
私は高校時代に受験のための勉強しかしてこなかったので、音大に入った後も苦労しました。みんなが知っている作曲家を知らなかったり、ユーフォニアム以外の楽器の知識がなかったりして、入学後に慌てて勉強しました。
■前田:
分かります。僕も大学入学当初は、ピアノ以外の知識がなくて苦労しました。たとえば、ピアノを弾いている時に先生から「この部分はヴァイオリンのような音で」などと言われることがあります。でも、自分でヴァイオリンを弾いたことはないし、ヴァイオリンと一緒に演奏したこともない。ヴァイオリンという楽器が体をどのように使って弾くものなのか、という実体験が少ないんですね。だから、言われたことを理解しているつもりでも、本当のところを理解できていなかったと思います。学芸では、高校生のうちから他の楽器と一緒に演奏する機会が多く、幅広い知識を身につけることができます。それは素晴らしいことだと思います。
■音楽を通じて磨かれる「セルフマネジメント力」
――音楽を専門に学ぶことによって、どのように成長できるのでしょうか?
■小久保:
よく言われることですが、好きなことを学んで一芸に秀でることができれば、いろんなことができるようになると思います。
■前田:
学芸の音楽コースは音大並みの勉強ができるので、技術だけでなく精神的にも成長することができます。その経験を活かせば、音楽以外の道でも活躍できると思います。卒業生の中には、「パティシエになりたい」と言って製菓の道に進んだ人や、体育大学に進んだ人もいます。仮に製菓の道に進んだとしても、アイデンティティの一つとして音楽との関わりを持ち続けることはできます。「ピアニスト兼パティシエ」になることも、魅力的な生き方だと思います。
■小久保:
私の知り合いで、音大を卒業して金融機関に就職した人がいます。入社した時は金融の専門知識がなくて苦労したそうですが、営業に出たら人よりも度胸があって、トップの成績を上げるようになったそうです。
音楽を専門に勉強してきた人は、「一人で舞台に上がって演奏する」という経験を何度もしています。誰も助けてくれない舞台の上で、途中で何か起きても自分の力で演奏をやり遂げる。それを繰り返すことによって、人間的にすごく鍛えられます。
■前田:
音楽コースの生徒たちを見ても、みんな打たれ強いと思います。
■小久保:
音楽を専門に学んだ人は、自分で考えて自分で準備することに慣れています。「本番までの時間を逆算して毎日こういう練習する」と自分で考え、実行する。その中で磨かれるセルフマネジメント力は、社会で必ず役立つスキルです。
高校生の頃から一つのことに打ち込み、人の評価を受けながらそれを続けるのは、すごいことですよね。人よりも早く社会に出ているようなものだと思います。音楽コースの生徒たちは人前で演奏する回数が多いので、成長の機会に恵まれていると思います。
――音楽コースの生徒に指導する際、どんなことを意識していますか?
■前田:
生徒たちは音楽という、自分の好きなことを学んでいるわけです。でも、学びの過程では楽しさだけではなく、苦しさを感じる場面もあります。一つのことを突き詰め、極めていこうとするからこそ、「産みの苦しみ」が伴います。
だから僕は、「苦しくなったらいつでもおいでよ」と伝えています。思うように楽器が弾けなくて悩んでいる生徒に、「大丈夫だよ、気持ちは分かるから」と、自分の経験を踏まえて話しています。生徒の苦しさを解決することはできなくても、それを感じ取ることはできます。自分が寄り添うことで、少しでも救われる部分があったらいいなと思っています。
■長い芸術の道を生徒と一緒に歩んでいく
――先生方も、音楽家としてそういう壁に何度もぶつかっているんですか?
■前田:
もちろん。壁ばかりですよ。
■小久保:
「一つ壁を越えたら、また壁!」という感じです。今もそれを繰り返しています。
■前田:
だから、生徒の悩みを聞いた時は、「その気持ち分かるぜー!」と思うんです。自分自身が突き詰めて音楽に取り組み、人生を捧げる思いで音楽に向き合ってきたからこそ、生徒の気持ちが理解できるのだと思います。
芸術の道というのはとても長いもので、その道を歩んでいる僕も生徒たちも、偉大な作曲家の前に立ったら大きな違いはないかもしれません。だから、先生として上から発言するというより、横に並んで、長い芸術の道を一緒に歩んでいるという感じです。
■小久保:
生徒たちには、いつか吹けるようになりたい「憧れの曲」というものがあります。そういう曲をめざす際は、「2年生の後期に挑戦しよう」などと一緒にゴールを設定し、そこから逆算して「今年の○月までにエチュードの何番を終わらせよう」と練習を積み重ねていきます。そうして、できなかったことを一つずつクリアしていく経験が、生徒たちの自信になります。
常に自分の能力より少し上のことに挑戦することは、私自身が心がけていることでもあります。私が指導を受けている先生は70代の方なのですが、今もまだ上手くなっているんです。全力で背中を追いかけているのに、先生はもっと先に行っている。だから私も自分の生徒に対して、「追いつかれないぞ」という気持ちがあります。前田先生が言われたように、生徒と一緒に芸術の道を進んでいきたいと思います。
■前田:
音楽コースの先生方は皆さん、音楽の道を極めようとしてきた経験のある方ばかりです。手前味噌かもしれませんが、「学芸の音楽コースには、経験豊富で素敵な先生がたくさんいるよ」と伝えたいと思います。
■小久保:
いろんな専門分野の先生方が自分の演奏を見てくれて、「今日の演奏は良かったね!」と気さくに声をかけてくれます。そういう環境があることは、自分の高校時代と比べるとうらやましいくらいです。
■前田:
音楽を専門的に学ぶ環境として、とても恵まれていると思います。音楽コースへの入学を迷っている中学生から相談を受けることがあるのですが、その子たちにはいつも、「ここに入れば、3年後、知らなかった自分に会えるよ」と言っています。「信じられないくらい上手くなるよ」と。本当にみんな、3年後には見違えるくらい上達し、人前で堂々と演奏できるようになります。その成長を楽しみにしてほしいと思います。
前田 勇佑/専任教諭 ピアニスト

京都市立芸術大学卒業、同大学大学院を首席修了し、大学院賞を受賞。ドイツ国立ワイマール音楽大学大学院を首席修了し、ドイツ国家演奏家資格を満場一致で取得。日本、ヨーロッパ各地で演奏活動を行う。

小久保 まい/講師 ユーフォニアム奏者

国立音楽大学を卒業後、渡米。テキサス州立ノーステキサス大学大学院修了。日本管打楽器コンクール最高位受賞。主にソリストとして国内外で活躍。
https://www.maikokubo.com/